地域建設産業の振興のために2021提言
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はじめに
近年、地震・火山噴火・台風・異常な集中豪雨・大雪など、自然災害が全国で多発しています。台風19号(2019年令和元年東日本台風)をはじめ、埼玉県内でも多くの被害が発生しました。そのような状況でも、地元建設従事者は被災地へ真っ先に駆け付け、復旧・復興活動を行い、地域の守り手として市民の命綱となっています。 しかし、少子高齢化社会のもとで建設産業は、全産業の高卒離職率39.5%と比べ、6.3ポイント(45.8%)も高く2人に1人が離職する状況で、産業を維持することが危機的状況となっています。 地域を支えてきた中小地元建設事業者・建設労働者(以下建設従事者)は、地域の守り手としてかけがえのない存在であり、「建設従事者の担い手を確保する」ための取り組みを進めることが喫緊の課題です。 国は担い手確保に苦しむ業界に対し、さまざまな施策をこの間進めています。 国土交通省・建設産業戦略会議の「建設産業の再生と発展のための方策2011」以降、社会保険適正加入と必要経費の確保策が取られ、公共工事設計労務単価についても、2013年以降、毎年引き上げを行い、2021年度には13年度比で53.5%まで上昇しています。また、賃金引上げ・労働条件の改善を目的に「担い手3法(入契法・品確法・建設業法)」が改正され、発注者・元請の責任を明確化し、人材育成・訓練の強化、ダンピング是正、契約の透明化と重層下請け構造の改善、地域建設業振興と維持保全型工事の推進などが実行されています。 埼玉土建一般労働組合(6万7千人の組織)は、議員要請行動や請願署名をはじめ、国(各省庁)・地方自治体に対し建設従事者の処遇改善の働きかけを行ってきました。また、「技能者の経験を蓄積し、能力に応じた賃金・労働環境の改善等につなげる」ことを目的に、「建設キャリアアップシステム(以下CCUS)」が2019年4月から本格稼働しました。国土交通省は「2023年度までにあらゆる現場で完全実施をめざす」としており、埼玉土建もCCUSを推進するため、全県33支部と本部が登録受付窓口(認定登録機関)となり、制度の普及に取り組んでいます。 私たち埼玉土建は、建設業界や行政と協力していくことで、建設業の担い手を確保し、地域住民の願いに応え、安全・安心な生活環境、災害に強い街づくりを進めていきたいと考えています。 この提言は、地域建設業界と行政に、私たちが発信する、地域建設産業の再生と振興を願うひとつの提案です。ご検討いただき、ご意見をいただければ幸いです。
1.担い手3法を活かし、建設業の働き方改革を進めます
現在、建設産業は、担い手確保や建設従事者の処遇改善に向けて、国・業界・労働組合が一体となった施策を進めています。2020年10月1日より、改正建設業法が施行され「著しく短い工期による請負契約の締結禁止」が新設されました。違反した発注者には許可行政庁による勧告ができることになっています。担い手確保・適正な工期・適正な賃金が実行されることが求められます。
①週休2日制に伴う適正な請負契約 担い手確保、育成の実現に向け、2024年4月には建設業への働き方改革(残業時間の上限規制)が始まります。今までの週1日の休日では、残業時間の上限を上回る恐れがあり、担い手を確保する上でも週休2日制の導入が求められています。しかし、これまでの日給月払いでは、賃金低下が避けられず、担い手確保に大きな支障も出てきます。週休2日制の導入に際しては、現場管理費の引き上げ、適正な工期、適正な賃金・単価が支払われ、発注者、および元請けが法定福利費等の経費を含め、すべての下請け業者へ適切に支払うことが必要です。週休2日になっても、これまでと同等以上の生活ができる適正な請負契約が必要です。 ②適正な賃金・単価で希望の持てる産業へ 公共工事設計労務単価は、2013年から政策的に引き上げられ、9年間で53.5%増となりましたが、組合の賃金アンケート結果では、現場労働者の賃金は10%程度しか上昇していません。私たちの求める「新規入職者年収360万円、時給2,000円以上」、日建連が掲げる「年収600万円」の実現には、単価抑制にメスを入れ、若手入職者が希望の持てる産業へと変えていくことが求められます。 ③公契約条例の制定に向けた検討会の立ち上げ 担い手確保、育成には、労働者の賃金を確保する制度設計が必要です。そのためには、公共工事設計労務単価を「品質を確保するための賃金」と位置付け、若手入職者に希望の持てる賃金を目指していきます。そのためにも「公契約条例の制定」が必要です。まずは、官・民・労働組合で「公契約条例検討会」の立ち上げを県や全市町村で進めます。2.建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用し若者に魅力ある建設産業を目指します
建設キャリアアップシステム(以下CCUS)は、魅力ある建設産業を作り、建設従事者の処遇改善や技能の研さんを図ることを目的に、国・業界・労働組合が一体となって取り組んでいるシステムです。国交省は、直轄工事でのCCUSの活用について具体的な内容と時期を取りまとめ、2023年度から公共・民間のすべての建設工事現場での活用を進めています。加えて、建設業退職金共済制度とCCUSを連携した電子申請方式への移行を軸に、原則義務化を掲げています。
①すべての現場でのCCUS活用と技能評価 すべての建設工事現場でCCUSを活用し、就労履歴の蓄積、および技能評価につながる実績づくりを進めていきます。能力評価基準に基づく技能者の能力評価(レベル)が適正に請負代金に反映され、技能者の賃金上昇につなげることが必要です。そのためにもCCUSの積極的な活用と、すべての工事現場で就業履歴が反映できる環境を作るため「カードリーダー設置助成金」の創設が求められます。 ②能力評価基準と賃金水準 日建連は年収600万円を目指すことを掲げ、35職種の専門工事業団体で能力評価基準を策定し、35職種以外の能力評価基準についても準備が進められています。専門工事業団体が策定したレベルに応じた能力評価基準を示した7職種(型枠大工・機械土工・内装仕上げ・建築大工・トンネル工・圧接工・基礎ぐい工)の賃金平均は、レベル4で年収815万円、レベル3で年収695万円、レベル2で年収470万円となっています。しかしどの専門工事業団体も、レベル1の水準が出されていません。担い手を確保するためには、レベル1で「年収360万円、時給2,000円以上」の賃金水準を示すことが必要です。能力を適正に評価することにより、全体の賃金水準向上につながり、目標を持ってやりがいのある産業になります。 ③資格取得助成制度の創設・拡充 技術・技能の研さんや、能力評価基準におけるレベル判定には資格を取得することが重要です。建設産業を支えている建設従事者が、積極的に技能検定や国家資格の取得を目指し、若者に魅力ある産業にしていくための支援策として、県や市町村で「資格取得助成制度」を創設し、既に制度化されている自治体においては、労働安全衛生法に基づく免許・技能講習・特別教育など、対象を拡充することが求められます。 ④企業評価の実効性 国交省は「企業の見える化」を進めています。CCUSにおける企業評価は、施工能力の高い専門工事業者が適正に評価され、地元中小建設事業者を守り、地域の活性化につながる仕組みです。県・市町村では、CCUSの企業評価と連動した経営事項審査の評点に加点することに加え、公共工事の総合評価方式においても加点対象とすることで、企業評価の実効性が高まります。3.適正な労働環境の実現に向けて
①パートナーシップ協約 建設産業を「魅力的な産業」に再生させ、次世代の担い手を確保していくためには、行政機関、民間の発注者、元請け事業者と労働者、労働組合の相互理解と協力が欠かせないと考えています。フランスやスウェーデンでは労働協約適用率が90%以上となっており、労働協約により定められた賃金が技能のレベルに応じて支払われています。これによりダンピングを防止し、賃金の低下に歯止めをかけ、技能者確保につながっています。中小企業庁の「下請適正取引等の推進のためのガイドライン」には、下請け事業者と元請け事業者は対立するものでなく、共存共栄の運命共同体である旨が示されています。 建設労働組合と建設事業者の良好な協力関係を作るため、今こそ、「パートナーシップ協約(労働協約)」締結を進めていきたいと考えています。
②偽装一人親方をなくし、適正な処遇を 社会保険加入や働き方改革などの規制逃れを目的とした「偽装一人親方化」が建設産業の処遇改善、公正・適正な契約に悪影響となっています。これを受け国交省・厚労省では、偽装請負をなくすための施策を打ち出しています。 請負契約で仕事をする個人事業主=「一人親方」は、建設業法上、下請け業者として施工体制台帳、施工体系図に記載される必要があり、必要経費を上乗せした契約が必要です。しかし、作業員名簿に記載され上位業者の指揮命令下で働く労働者であるという偽装請負の実態や、必要経費が含まれない契約のもとで働いていることが数多くあります。また、本来であれば労働者であるものが、知らないうちに「一人親方化」され、本来の処遇が受けられない状況が確認された場合は雇用契約を結ぶべきです。労働者を雇用するための経営が継続できる、適正な金額での下請け契約が必要です。 ③建退共の貼付と辞退届の廃止を 建退共制度を官・民問わず、すべての工事に適用し、発注者の責任で労働者に貼付される体制を強固なものにすることが求められます。建退共証紙を「第2の賃金」として全労働者に確実にわたるシステムの構築が必要です。また、公共工事現場での「建退共貼付辞退届」の廃止を求めます。 ④建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律(建設職人基本法) 建設工事従事者の安全および健康の確保を推進するため、国は、建設職人基本法を策定(2017年3月施行)しました。埼玉県としても建設職人基本法に基づく基本計画が策定されました(2021年4月)。官・民を問わず、労災保険料を含む安全衛生経費の確保や一人親方問題への対処等がなされるよう、適正な請負契約・適正な工期を実効性あるものとするために、県・自治体·建設業界あげて取り組んでいく必要があります。 ⑤女性技能労働者が安心して働ける環境 国交省が2019年12月に「建設産業女性定着促進計画」を示し、建設産業においても女性が活躍する業界になってきています。総務省の2019年労働力調査によると、建設就業者数499万人に対して女性は84万人となり、建設業全体に占める割合が16.8%となっています。しかし、女性が働く環境の整備が遅れているのが実態です。女性用トイレや更衣室・洗面所など、女性用が安心して働ける環境づくりが必要です。4.建設業での感染症等に対する対応をすすめます
①感染症等に対する情報公開や、休業補償などの支援制度 建設現場で発生した事故や病気は、元請労災の適用が原則です。労災保険は、本人負担なしで検査や治療がうけられます。現場での感染症等の拡大を防止するためには、さらなる公的な支援制度を実施することで必要な経費負担を軽減し、感染拡大の防止につながります。また、建設現場で感染症等のクラスターが発生し現場閉所になった場合、速やかに労災適用を行い、直ちに現場関係者・作業員に検査状況や情報を公開し、さらなる感染拡大を未然に防ぐことが求められます。下請け企業を含め、労働者の休業を補償することが、他現場での感染拡大を抑制することにつながります。
②労働者が休みやすい環境整備を 本人や家族が罹患した場合の休業補償、有給での病気休暇や、育児・介護休暇の取得促進など、労働者が休みやすい環境整備を行うことは企業の責務です。また、自宅待機者の休業補償を確保するためにも、自治体は公的支援制度を作ることが必要です。 ③中小業者への補助制度 感染症等が広がった場合、地元中小建設業者における資金繰りの悪化等の対策として、貸出金利の引き下げを行うなど支援策が求められます。さらに自治体には、無利子による緊急融資制度の創設が必要です。 ④感染予防策の徹底 公共・民間現場を含め、県内のすべての現場で「建設業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン改訂版(国交省)」を遵守することが求められます。そのためにも、自治体独自の「3密」状況の改善と感染予防策を徹底する指針の制定を検討し、速やかに対応していくことが必要です。5.建設従事者の命と生活を守るためのアスベスト対策をすすめます
国交省は全国にある280万棟もの民間建築物にアスベスト(石綿)が使用されていると推計しており、2028年までに解体のピークを迎えるとしています。アスベストの危険性は建設従事者だけでなく、国民全体の問題であり、誰もがアスベストの危機にさらされています。アスベストが含有された建築物の解体・改修作業における最大の問題はコストにあります。適正な処理を行うための補助、あるいは助成制度の創設を求めます。
①必要な処理費用等適正な契約 公共施設の改修にあたり、適切な①囲い込み、②封じ込め、③除去に必要な処理費用等を別枠化します。また、着工後にアスベスト含有が明らかになった場合、契約の変更や別途適正な契約を行うこととします。 ②民間・個人住宅の解体工事補助制度の拡充を 民間・個人住宅の解体・改修工事については、調査および適切な処理が求められるため、処理費用を補填、あるいは助成する制度を拡充し、適正な処理をすすめます。 ③民間住宅で一戸建て等建築物石綿含有建材事前調査に対する助成制度の拡充を 民間住宅で80㎡以上、100万円を超える解体改修工事を行う際には、あらかじめ電子届により事前調査の結果等を労働基準監督署に届けなければならないことになりました(2022年4月施行)。住宅リフォーム等を検討する人にとって負担とならないよう、一戸建て等建築物石綿含有建材調査者が調査する費用の補助、あるいは助成制度を拡充し、施工者・住民の健康障害の防止を求めます。 ④「石綿被害補償基金制度」の創設 建設従事者がアスベスト関連疾患に罹患した場合、労災補償を行うとともに、訴訟手続きを経ずに損害補償が迅速に受けられる制度の実現を目指します。国に対して罹患者が裁判によらない早期の救済制度として「石綿被害補償基金制度」創設を求めます。6.住生活・住環境向上に向けての自治体支援制度の拡充・創設
(一社)住宅リフォーム推進協議会が行った「住宅リフォーム潜在需要者の意識と行動に関する調査(2019年2月)」では、「時期はわからないがいずれリフォームしたい」を含むリフォーム意向は、マンション52.1%、戸建て50.9%といずれも半数を超えています。一方、リフォーム非意向の理由は、「現在の住宅に不満がない」に続き「リフォームにはお金がかかりそう」となっており、リフォーム支援制度について「知っている制度もなく、利用したこともない」が半数を超えています。住宅リフォームは耐震、省エネをはじめ、子育て世帯から高齢者世帯まで住民の要求・関心が高まっています。 新しい生活様式が示され「健康で文化的」に生活する住まいはどうすべきかが、今求められています。住宅および住環境の維持・向上を図るうえで、住宅リフォームを推進し、誰もが住み慣れた地域で住み続けられることが可能な地域社会にする自治体の施策が求められます。
①住宅リフォーム助成制度の拡充・創設を 埼玉県内では25市16町(2021年2月現在)で「住宅リフォーム助成制度」が施行されています。新型コロナウイルス感染拡大により、家計が打撃を受けたことによる住民の購買意欲の衰退、さらに2019年10月の消費税増税で、個人消費は減少の一途をたどっています。「新しい生活様式」に変えたくても、先行きの不安からリフォームしたくてもできない状況にあります。 また、行政の後押しが必要である現在、住宅リフォーム助成制度が、一世帯一度しか利用できない自治体が少なくありません。繰り返し利用できる制度に見直すことも有効です。 ②店舗(商店)リフォーム助成制度の創設を 埼玉県内では、川口市、狭山市をはじめ13市2町(2021年2月現在)で、店舗・空き店舗・住宅のリフォーム助成制度や店舗リフォーム助成制度を創設している自治体があります。昨今、大型店舗の出店が相次ぎ、地域商店街は疲弊しています。このことからも、地域経済の活性化かつ事業継承を図るうえにおいても、住宅リフォーム助成制度に加え、店舗(商店)リフォーム助成制度の創設が必要です。 ③「新しい生活様式」に対応した助成制度の創設を 全国の自治体の中には、住宅や店舗向けの「新しい生活様式」に対応するための助成制度を創設しているところもあります。山形県では創設した自治体に補助金を交付しており制度が広がっています。自治体として住民の命と健康を守るうえにおいて「新しい生活様式に対応した住宅(店舗)リフォーム助成制度」を創設することが必要です。 例)ワークスペースの設置、玄関脇手洗い器を設置、タッチレス水栓器具の設置、居室の換気のため換気設備を新設または交換する等7.小規模公共工事こそ、地域の安全安心を守り、地元建設業者の発展につながります
自治体が発注する小規模な修理・修繕等契約は、小規模事業者の受注機会を拡大し、積極的に活用することによって、地域経済の活性化につながります。 埼玉県では63自治体中62自治体が実施しており、この数は全国1位となっています。2018年度は、県内1644の登録業者に1万1,043件の仕事が発注され、1年間で20億円の工事が施工されました。この小規模公共工事は、地域密着型で安全・安心を確立し、公共施設を長持ちさせます。そのためにも拡充・発展させる必要があります。中小企業振興基本条例の趣旨からも、小規模公共工事を発注し、地元建設業者の育成・発展が求められます。
①まちの危険箇所改善のために 私たちは毎年「安全・安心のまちづくりウォッチング」で、地域の修繕・改修が必要な危険箇所を探すとともに、住民から「街の危険な箇所を届けて下さい」アンケートに取り組んでいます。その結果を報告書にまとめて自治体に届け、小規模工事登録業者への発注を求めています。 埼玉県は、道路の損傷に限って、スマホやパソコンで通報できるシステムを構築し、運用を開始しました。また、一部の自治体では、地域の危険箇所や備品の故障など、気軽にスマホから自治体へ報告できるシステムを構築し、その情報をHPで公開し迅速に対応状況も公表しています。この先進的な取り組みに学びながら、住民、組合、行政がひとつになった地域共同型で役割を果たしたいと考えています。 ②地元零細業者へ発注を 小規模工事登録制度の基本的位置付けは、「未登録の入札参加業者」というものです。もうひとつの特徴は、本来、公共工事は入札という方法によって最も安い価格を提示した業者に発注するというシステムですが、特別な条件のもとでは入札によらずに随意契約によって発注することができる(会計法・予決令・地方自治法施行令)という、いわば特別枠での発注方法を取るというものです。 この制度を使って、未登録の地元小規模業者の受注機会を確保することが必要です。 ③公正公平な発注を 多くの自治体での発注形態は、最小でも2社から見積もりをとって、低い金額を提示した業者に発注するというものですが、問題は随意契約で処理すべきものが書類上は指名競争入札になっていることです。また、一部の自治体では、登録業者名簿を各部署に配布し、指名するのは担当者(課)任せになっており、発注件数の半数以上を一社で受注し、偏りが生じているのが実態です。本来の随意契約に戻し、①登録した業者が賃金や利益が担保できるようにすることと、②予定価格を組み、公平公正な発注を制度化する配慮が自治体には必要です。8.大規模な自然災害に備え、老朽化したインフラの対策・整備等を地元建設業者へ
近年、大規模な自然災害が県内でも多数発生しており、住民生活に大きな被害や影響をもたらしています。東日本大震災以降、公共施設等は耐震化が進んでいますが、生活の起点となるインフラ整備は進んでいないのが現状です。 また、県では2020年7月9日、国土交通大臣に「国土強靭化や経済の活性化に資するインフラ整備や老朽化対策の推進について」を要望し、①インフラ整備の強化、②治水対策の強化、③幹線道路網の強化を重点項目として掲げました。 今後、気候変動による大洪水に備え、治水対策や老朽化した橋りょうの対策、さらに大地震に備え、老朽化した上下水道管、ガス管の交換や耐震対策等は急務となっています。そして、災害発生時、第一に地元建設業者の対応が求められていることから、各種インフラの整備を図り、地元の環境に精通した建設産業の活性化を支援することで、住民・事業者が地域でいきいきと生活ができます。 公共工事を地元建設業者に発注することで、地域経済の活性化と地元企業の育成が図られます。
①増え続ける老朽化したインフラ 「国土交通省白書2020」では、高度経済成長期以降にその多くが整備された社会インフラについて、建設後50年以上経過する施設の割合は、2033年(令和15年)時点では道路橋で約63%、トンネルで約42%と見込まれており、その割合は増加傾向にあるとしています。 自治体には老朽化したインフラ整備を地元業者へ発注し、永く安心して住める街づくりが求められています。さらに、地元建設業者に公共工事を発注することにより、事業継続、雇用の維持・確保も期待でき、地域経済の発展にも結びつくことになります。 ②市町村技術職員の減少 市町村のインフラの維持管理に関わる地方公共団体の土木部門の職員数は2005年度から2018年度の間で約14%減少しています。職員の減少に伴い、コンサルタントに委託せざるを得ない現状にあります。 市町村技術者の雇用・育成と合わせて、今後もインフラ整備が大きな課題となっています。 ③災害発生後の「事後保全」から「予防保全」への転換を インフラメンテナンスは、災害や不具合が生じてから対策を講じる「事後保全」が大半を占め、復興・復旧までに時間がかかり、住民生活に大きな支障を与えます。 国土交通省は「事後保全」の考え方を基本とする試算よりも、「予防保全」の考え方を基本とする「2018年度試算」で、5年後、10年後、20年後で維持管理・更新費が約30%減少し、30年後には約50%減少すると試算しています。 今こそ、災害や不具合が生じる前に対策を講じることが求められます。9.自然災害に備えた体制づくり 住民を守る行政に
甚大な被害をもたらした東日本大震災は、地震と津波によって全壊・半壊合わせて40万4,893戸の家屋が被害を受け、ピーク時には約47万人が避難を余儀なくされました。復旧・復興が進む中、2016年に震度7を2度も観測した熊本地震、また2018年に西日本を中心とした平成30年7月豪雨と大きな自然災害が発生しています。2019年も風水害が相次ぎました。令和元年房総半島台風(2019年台風15号)は関東を中心に19地点で観測史上1位の最大風速を記録。この暴風により、千葉県を中心に約93万4,900戸の停電が発生し、全半壊など約7万棟を超える家屋が被害を受けました。さらに令和元年東日本台風(2019年台風19号)では、東日本を中心に多くの地点で観測史上1位の雨量を更新する記録的な大雨により、71河川140ヵ所で堤防が決壊し、家屋の全半壊等4,008棟、浸水7万341棟という甚大な被害が発生しました。 大規模な災害は、人命や社会活動だけでなく、経済活動にも大きな被害をもたらします。住民の命と暮らしを守る自治体の優先課題として、位置付けを高くしていくことが必要です。
①災害時にむけた「災害救援」体制づくりを呼びかけます。 災害時に必要な道具、重機、発電機、車両などを保有する埼玉土建の組合員が地域にいます。建物の構造にも知識があり、これまでの災害時においても数多く応急活動に参加した経験があります。地域に根差した建設組合として、自治体と災害協定を結び、災害から地域を守る活動に参加したいと考えています。10.外国人労働者への支援制度の拡充
外国人であるかどうかにかかわらず建設現場において危険を伴う作業に従事させるためには、労働安全衛生法に基づく教育・資格・免許が必要とされていますが、日本語能力が低いと労働災害を防止するための教育内容を十分に理解することが困難です。建設産業に向けた専門用語を含めた日本語教育を実践することこそ、技能の習得につながる近道といえます。 技能実習生の受け入れにあたっては、日常生活を円滑に送ることができるように、監理団体(企業単独型受け入れの場合は企業)が原則として入国後に2ヵ月間の日本語教育を行うことが義務付けられています。 ほとんどの送り出し機関では入国前に現地で1ヵ月以上の日本語教育を行っているため、多くの監理団体では入国後1ヵ月と短い日本語教育になっています。配属後は受け入れ事業所における継続的な日本語教育が委ねられていますが、十分な日本語および安全教育を実践できる企業は限られます。 「各産業向け日本語学校」などの学び舎が必要ですが、学校の設立は難しいのが現状です。自主的に教育を実施している事業主や教育機関に対して支援金制度を創設していくことが求められます。